友達だから

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「あ」 お礼を言おうと口を開くと、彼は指で『早く前に行ってくれ』とバスの中を示す。 ……って、そうだよね! 早く中に入らないと皆さんに迷惑が! もうかかっているけど……。 「す、すみません!」 慌てて中に乗り込み、周りに頭を下げながら後ろの方の空いている席に腰を下ろした。 ドスンッと勢いよく腰を下ろし、フーッと薄く息を出す。 こわかったぁ……さっきの人が靴を拾ってくれなかったら下手したら靴を拾おうと転んでいたかもしれないし……。 それにしても、さっきのシンデレラみたいだったかも……。 王子様がガラスの靴を履かせてくれるシーンが急に頭の中に過ったから、顔熱くなっちゃった。 あれ? そういえばさっきの恩人さんはどちらにいるんだろう? 手で顔を扇ぎながら、辺りを見ようと通路側に首を向けると……。 いた!! というより、ちかっ!! 思ったより自分のすぐ近くに居て、扇いでいる手を止めてしまう。 私が座っている席のすぐ横の柱を掴んで立っていたからだ。 ばっちり目が合ってしまい、「あ、その……さっきはありがとうございます。座りますか?」と声を掛けた。 恩人が立っていて、私が呑気に座っているなんて申し訳ない! 立ち上がろうとすると、目の前を手で制止される。 「大丈夫ですよ、どうぞ座ってください」 ニコッと微笑まれ、かなりの好青年ぶりに頬が若干熱くなる。 明るい茶髪に、少し日焼けしている顔。スポーツマンかな? 「すみません、ありがとうございます」 「いいえ。それよりも……あの、差し支えなければ連絡先教えていただけませんか?」 「え? 連絡先!?」 急な言葉に、つい大きな声を出して驚いてしまう。慌てて口を塞ぐけど、狭いバスの中では結構響いてしまった。 な、なんで初対面の私の連絡先なんか聞いてくるの? 特に大した会話もしていないし、この目の前の好青年にいいなと思われるところはまったくなかった。自分で言うのも悲しいけど、一目惚れされるような顔立ちではないし。 ともすれば、迷惑料でも取ろうと企んで……。 「そんなに驚かないで。急にこんなこと言ってくるなんて怖いよね。すみません。……でも、いきなりじゃなくて……前からたまに同じバスに乗ることがあって、それで気になってしまって……」 申し訳なさそうだけどどこか照れくさそうに笑う彼に、心が飛び跳ねるのを感じた。
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