夢にまで見た

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「……よく分からないな。忘れたいなら、忘れる努力をしてみた方がいい……。それはその人との思い出に縛られてるだけで、他の人といるうちに忘れることもあると思うよ」 岩田さんは無茶苦茶な私の話を真面目な表情で聞いてくれて、ゆっくりと冷静に話を理解しようとしてくれている。 「……忘れる努力をして、自分を変えようとして、こうやって着飾ってみたけど……やっぱり無理でした」 「そんな簡単に諦めちゃうの? もうちょっと頑張ってみたら……」 岩田さんの言葉に再度首を横に振る。 「……違うんです。忘れられないんじゃなくて、忘れたくないんです」 岩田さんの瞳をまっすぐに見つめて言うと、「困ったね」と頭を掻きながら小さくそう言ったのが聞こえた。 「じゃあ、もう会えないんだね?」 「はい。あ、でも私が勝手に岩田さんのことそういう感じで意識していただけで……! 本当そんな風に岩田さんはまったく私のこと意識していないことは重々承知なので、こんな話の後に言うのも失礼な話だとは思うんですけど、もし私と友達になってもらえるなら……」 「それは無理かな」 言葉を遮られて食い気味で言われてしまった。 そりゃ、そうだよね。岩田さんは私のこと何とも思っていなかったのに、会っていきなりこんな重々しい話をされて、その上私が岩田さんのこと意識していたとなれば、友達にもなりたくはないよね。 「そうですよね……」 「だって、好意を寄せていた子とただの友達として会うなんて辛すぎるよ」 「え」 そう言って岩田さんは席を立つ。 「ごめん。折角誘ったのに、もう俺は出るね。よかったらこれで何か食べていきなよ」 そういって二千円ほどをテーブルに置いていく岩田さんに、私はただただ目をまん丸にすることしかできない。 「え? 岩田さ……」 「もう間違っちゃ駄目だよ。忘れないようにね、それとその彼と上手く行くようにね」 そう言って颯爽とお店を出ていく姿は信じられない速さで……私はいまだに岩田さんの言葉に驚きを隠せずにいた。 私のこと、好きだったってこと? 岩田さんも私のこと、意識していたってこと……? それに二千円……。  
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