*+。キオク。+*

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『蓮華』 声をかけると、彼女は縮こまっていた身体をビクッとさせた。 『……その声は、彰弥くん?』 顔を上げる前に、蓮華は俺の名前を呼んだ。 『俺だということがよく分かりましたね』 『あはは、侑弥くんの声はもうちょっと荒っぽいからね。彰弥くんは、反対に穏やかだし』 蓮華が俺の方に顔を向け、笑った。 侑弥と俺の声は、やはり似ている。声の高さや表現は違ったとしても、声質は同じだ。 顔を見ても、どっちの声か分からない人は多い。 だから、蓮華みたいに顔を見ないで声だけで判断するというのは、正直凄い。 それに、とても嬉しい。 『こんなところで何してるんですか?』 問いかけると、蓮華は『探し物だよ』と言って、また地面に這いつくばっている。 ……たまに蓮華がよく分からなくなる時がありますが、彼女の個性なんでしょうね。 『…何を探してるんですか?そんなに地面に顔を近付けたら、キスしてしまいますよ』 後、数センチで蓮華が地面にキス出来そうな距離だ。 『えぇっ!?キ、キス…ッ!?わ、わたし…っ、あの…』 蓮華は急にガバッと身を起こし、何故か慌てている。 俺は、そんなにいけないことを言ったのだろうか。 ……蓮華が慌て出すようなことは言ってないだろう。 『え…えっと…っ、わ、わたし…急にキ、キスとか…言われ…っ、ても…っ』 自分で“キス”と言った途端、蓮華は顔をタコみたいに真っ赤にさせた。 しかも、声が思いっきり裏返っている。 …何故? 『地面にキスしちゃいますよって言っただけでそんなに照れるものですか?』 『え!?じ、地面…!!?そ、そっか…。そうだね…あはは』 蓮華は一瞬とても驚いた後、枯れるように笑った。  
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