*+。キオク。+*

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『………?』 蓮華の慌てた様子に首を傾げたが、すぐさま何かが頭によぎった。 ああ、もしかして…― 『俺が蓮華にキスすると思いましたか?』 笑ってそう言うと、蓮華は図星だったみたいで、更に顔を赤くさせた。 『そ、そ、そ、そんなことないよ!!思うわけな、ないでひょ!』 そのわりには、思いっきり噛んでますが。 『そうですか。蓮華のお望みでしたら、しようかと思いましたが』 フフッと笑ってみせると、蓮華が衝撃的な顔をしだした。 おっと…思わず噴き出しそうになってしまいました。 『キ、キスの安売りはダメだよ!』 キスの安売り…? 『何故ですか?』 なんとなく聞いてみた。 別に安売りするつもりもなければ、最初からキスをするつもりもない。 冗談で言ってみただけだが、彼女は随分本気に捉えてしまったみたいだ。 『本当に好きな人とじゃなきゃダメなんだよ。何とも思ってない人にしたって、寂しいだけだし、虚しいだけだと…私は思うんだ。 それにされた方も嬉しくないと思う』 思った以上に真面目に答える蓮華に、俺は言葉を一瞬出せなくなった。 …蓮華って、思っていた子とちょっと違ったみたいだ。 俺から見ていた蓮華は、いつも人に合わせようとして、自分をまったく出していない……自分が無い人間だった。 彼女は、毎日がつまらなさそうで、椿の陰に隠れているだけだと思っていた。 でも、違った。  
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