*+。キオク。+*

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『蓮華』 木々がざわざわ…と動き出し、風が葉をくすぐる。 勢いのいい風がやってきて、一気に俺達の間を駆け巡った。 蓮華の髪もバサバサ…と風に靡き、風が止まったら、結構ボサボサになっている。 それでも、自分の見かけにお構いなしみたいで、蓮華は気にせずに地面を見ていた。 他人から見ると、一歩見間違うと、オバケに見える。 髪がボサボサになっていて、顔が見えない。 しかも、下を向いている為、余計恐怖感を誘う。 『…蓮華』 『なーに?』 『髪がボサボサになってます。髪で顔が隠れて見えないので、他人から見たら恐怖を尊重し、床に這いつくばる恐ろしい女性に見えます』 『そうなんだ、あははー』 自分のことを言われているのに、まったく気にしない。 逆に喜んでいるように見えるのは気のせいだろうか。 ……まあ、そういうところも可愛く見えてしまう俺は、重症か変人か…。 『…仕方ありませんね。直してあげます』 『悪いね、ありがとう』 下を向いて四つ葉探しをしている蓮華の髪に手を伸ばした。 黒く、芯がある髪。 真っすぐなその髪をゆっくり撫でて、直す。 蓮華に近付けるチャンスは、きっと少ないだろう。 なら、蓮華と侑弥の距離が近付く前に……。 俺が先手を打ちましょう…― 直した髪を一束掬い、微かに唇を落とした。 四つ葉探しに真剣な蓮華には分からないけど、これが俺の先手…―。 早く、俺と蓮華の距離が縮まればいい…―。 俺と蓮華の影が伸びて、重なっている。 この影のように…いつか…想いが重なってくれたら…―。  
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