*+。キオク。+*

13/13
前へ
/430ページ
次へ
―――――――――――― ―――――― やっと手に入れた彼女の笑顔は、もう俺だけに向けられていない。 「本当に、俺のこと…もう何とも思ってないんですね」 自室の中、ソファにもたれ掛かり、溜め息を吐いた。 彼女は、どこから覚えてないんだろうか…? 俺が蓮華に会った時は? 俺が蓮華にキーホルダーを渡した時は? 一緒に四つ葉のクローバーを探した時は? 花火大会で、蓮華を抱き締めた時は? 気持ちが伝わった時は…? なんで、やっと会えたと思ったら……またすれ違う…。 頭を抱えて考えていると、携帯がブルルッと震えだし、電話がきていることを伝える。 ディスプレイには“椿”と出ている。 何の用でしょうか。 ピッと受話ボタンを押し、電話に出た。 「はい。どうかしましたか?」 『あ、彰弥くん。あのね、今日の蓮華のこと…なんだけど。 ちょっとおかしくなかった?』 椿の不安そうな声が電話越しから伝わってくる。 「…ええ、少し」 『変なこと言うかもしれないけど気にしないであげて。蓮華、ちょっと疲れてるのよ』 「変なこととは?」 『な、何も言ってなければいいんだけど…、意味が分からないこととか、椿の前で言ってたから、もしかしたら彰弥くんの前でも言ってるんじゃないかしらって』 椿が気を遣ってくれているのが、よく分かる。 「変なことなんて、言ってませんよ。蓮華は、いつもの蓮華でした」 『…そ、そお?なら、良いの』 椿の苦笑いしたような声が、耳元から聞こえる。 椿には心配をかけられない。 ……蓮華が忘れてるんなら、思い出させるしかない。 俺が、伝えるしかない。  
/430ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2795人が本棚に入れています
本棚に追加