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「…は、離して…」
か細い声で言われ、一瞬躊躇ってしまうが、この手を離したら…二度とあの時の話は出来ない。
「…俺の話、聞いて頂けませんか?あの時のこと、謝りたいんです」
彼女の手を握る力を強めると、彼女はこちらを向いた。
今にも泣きそうな顔で……。
大きな瞳から、涙が溢れそうな……。
「…そんな話、今更したって変わらないわ。あたしがどれだけ傷付いたか…あなた達には分からない」
確かに、その通りだ。
前川さんがどれだけ傷付いたか、悲しんだか…俺には分からない。
実際、俺と侑弥も心に傷を負った。
好きな人に理解してもらいたかった…気付いて欲しかった。
前川さんが俺に告白しようとした時、侑弥を“俺”と称して…前川さんの前に出した。
前川さんに、俺じゃないって気付いて欲しかった…。
でも、そんな微かな願いは伝わらず、前川さんは…侑弥を“俺”だと思って告白した。
きっと…後になったら気付いてくれると思って、俺は侑弥に“オーケーサイン”をして、彼女と付き合うことになった。
彼女と会う時、たまに侑弥と俺が入れ代わったりしてみた。
…月日が経っても、彼女は全く気付いてくれず……。
最後の願いを込めて、クリスマスに彼女とデートをした。
侑弥が。
でも、最後まで…気付いてくれず、侑弥から前川さんにすべて打ち明けてもらった。
たまに入れ代わっていたことを。
告白も、今日のデートも…侑弥だったんだ、と。
結局、俺自体を好きになってくれたわけじゃなかった、と知った。
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