街灯のオレンジは飴玉みたいで

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街灯のオレンジは飴玉みたいで                             遠くで唸る音に不快感を覚えた私は、目が覚めると同時にいつもと違う景色を見ていた。一瞬取り乱したが、それとほぼ同時にくだらなさを感じる。私の寝相の悪さは相変わらずだった。音の正体はすぐ理解できたが、それが足先の向こうから聞こえるとは思ってもいなかった。私は寝癖も直さないし服にだって迷わないので、家を出る寸前までただただまどろんでいる。時計を眺め続けては、少しでも時間が止まらないかと念を送っている。朝日にいじめられる様に私の毎日は始まり、アルバイトに向かうまでの時間はいつだって憂鬱だ。外へ出れば視界を塞ぐ前髪は、向かい風に吹かれてあっけなくなびく。  私は現在、本屋で働いている。駅が近いせいで待ち合わせに利用されたりするものだから、立ち読みのお客さんがほとんどだ。常に散らかった本を探しては直す事の繰り返し。お客さんからの問い合わせなどがあれば時間を潰せて嬉しいものだ。  この仕事に務めてもう二年になる。しかし私ももうすぐ辞める事にした。何か問題があるわけではない。むしろ何の問題もないと思っているのが、それがまた惰性で生きているような気がして、ぼんやりとだが恐ろしいのだ。アルバイトにしてはまあまあ古株の私は、店長にはもう少し居てほしいと求められるのだがそれもいまひとつピンと来ない。仕事に就いたばかりの時にいた先輩達は次々にいなくなり、アルバイトの中で私は気づいたらベテランの域になってしまった。新人は入ってくるが退屈に耐えられないのかすぐに辞めていってしまう。  バイト募集に来るのは主に大学生がばかりだ。学生という身分は何処か最後の自由を生きているように見える。お洒落を身に纏い、恋に遊びに一生懸命だ。社会人になる一歩手前で時分の花というものを存分に爆発させている彼らに、私はむせ返るような息苦しさを感じる。未練がましいのか、彼らを見ていると私は少しばかりの劣等感を抱いてしまう。  
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