街灯のオレンジは飴玉みたいで

4/20
前へ
/20ページ
次へ
 彼らはなぜ社会人になりたがっているのだろう。安定した人生を送る為に嫌でもみんな頑張っているのだろうか。そんなことを思う度に嫌悪感に陥るので、自分を肯定する為にも私は今の生活を愛さなければいけない。しかし今の私は何になりたがって生きているのかわからない。そんな矛盾に飲み込まれて目眩がする。 私は今、半透明だ。プランクトンにでもなったようにこの街に漂っている。夏の日の解放感は誰の為にあるのだろう。私は何になれるのだろう。  私が美術大学に進学していた理由は実は幼い日の夢にある。幼い私は画家になりたかったのだ。私は毎日欠かさずと言っていいほど、絵を描くことに夢中になっていた。幼稚園のバスが迎えに来ても画用紙から離れることが出来なかったくらいだ。目に映るものすべてを頭の中の画用紙に描きたいほどにとり憑かれていたのだ。 私は身体が弱かったのだが、これは母に似たのだろう。私の母は日頃、頭痛に悩まされていた。幼い私から見ても健康的とはほど遠いものだった。寝込んでいること多くあまり笑顔は見て取れなかった。こんなものだから私は母を気遣って一人で静かに遊ぶことが多かった。そんな時、絵を描くことは寂しさも忘れるほど時間を進めてくれる最高の遊び相手だった。    小学生にあがる少し前。私の絵も上達した頃、アトリエ教室に通うことになった。田舎の小さなアトリエ教室。これから開く教室という事で、私は初めての生徒の一人だった。五十代くらいの女性とその息子が先生だった。息子の方はたまにしかいなく、とてもおとなしかったせいかあまり記憶にない。背は高くいかにも好青年という感じだった。アトリエの二階が自宅のようで、先生達はそこに住んでいた。隣には公園があり休憩時間には生徒みんな外で遊ぶのだ。画用紙から離れて人間と向き合わなければいけないこの時間が内気な私には嫌いだった。今思えば私の学校嫌いはこの頃にもあったのかもしれない。あまり気が向かない時には私は一人、教室で黙々と作業していた。 「みんな外に行っちゃったよ。遊びに行かないの?」 「先生も外に行ってくるからね」
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加