街灯のオレンジは飴玉みたいで

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 この知らせを母から聞いた時、私はものすごく悲しかっただとか、落ち込んだという感情はなかった。よくわからないというか一年半ほどの休講の間に何となく再開は無い気がしていた。それでも別にいいや、くらいに思っていた。小学生の頃はクラス替えがある度に遊ぶ友達が変わっていくけれども、それに近い感覚というか。終わったら次の場所を求めればいいという少々残酷な人間になっていたのかもしれない。しかし確実にこの頃から、夢に向き合ってすべてを吐き出そうとする気持ちも場所も無くなっていた。  私はこの時以降も絵を描く事だけは自分にある唯一の才能だと自負していた。中学生の時も、高校生になっても美術の成績だけは良かったし、学校に飾られる事もしばしあった。しかしなんというか、無垢な気持ちで夢中になって絵を描く事は無くなってきていた。きっと井の中の蛙だったのだろう、自負していた部分に馬鹿みたく溺れていたのだと思う。こんな調子で大学に入ったものだから集中力など散漫でこんな結果なのだろう。もっと夢に向き合っていれば他人など、背景など消えたはずだ。  そして現在、この街に台風が来た。テレビでは台風中継、警戒地域、電線状況と台風の被害を伝える事で忙しい。静かな部屋で私はテレビを眺めながら、台風が来ている間だけ隔離された別の世界に居るようだった。 ふと気が付けばガラスを叩く音は去り、私は追いかけるように外へ出た。まさに私だけ時間が止まっていたのだろうか。空気は澄んでいて少しだけ肌寒く、地面いっぱいのちぎれた葉っぱに夏の終わりを感じた。そして仄かに金木犀の香りがすれば、ノスタルジーは加速した。
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