街灯のオレンジは飴玉みたいで

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 私は仕事を辞めて時間が空いたので故郷に帰ることにした。両親に会うのは大学を辞めた時以来、その時には東京で会ったので故郷に帰るのはもう四年ぶりくらいだ。退学すると伝えた時、両親は意外にも何も言って来なかった。しかし本音では絶対に辞めて欲しく無かっただろう。当たり前だ。私はその罪悪感もあってなかなか会う事が出来なかった。私には姉も妹もいるが姉は結婚し子供も二人いて、妹の方は就職している。二人とも良くできている。私だけふらふらとしていて両親の悩みの種なのではないだろうか。だけれども今はそれなりに生きていけているし、病気の一つも患ってない。もうそれだけわかってもらえたら、すぐに東京へ帰ろうと思った。心の靄を少しでも殺したかった。  私にはもう一つ目的があって、それはあのアトリエ教室へ行ってみる事だった。それはきっと先日のノスタルジーに駆られたせいだろう。いびつなままの夢が始まった場所を今ならどう思うだろうか。  まだ天気は不安定だが、私は傘を持たずに翌日の昼過ぎには家を出た。両親に今から帰ることを電話で告げ、券売機で一番端のボタンを押した。ここの駅は賑やかで、いつだって私の気持ちなど無視してくれる。今日もまたそうだ。故郷は近いが、なにせ田舎なので電車が少なく四時間ほどかかってしまう。最初の改札を抜ければ、私は故郷に帰るせいか、少しの緊張と感傷に浸っていた。  東京を出たところで乗り換えた電車内には人影も減り、私は記憶を辿るように丁寧に景色を眺めていた。だんだんと太陽は沈み、空は薄暗くなってきた。これはただ灯りの少ない場所まで来たせいだろうか。  最後の乗り換えを終え、電車は走り出す。すると窓には水滴が後ろへ流れては消える。窓に張り付く虫を水滴が邪魔をした。傘を持って来なかった事を少し悔やんだが、きっと雨はすぐに止むだろう。もう周りは随分暗くなり、もうすぐ私の育った街へ着く。電車はトンネルに潜り、走る音がうるさく響けば、それは先日の台風のようだった。そんな台風を抜ければ思い出のこびり付いた街へ出る。  十八歳でその街を出た私はきっと希望を抱いていた。自分が発揮出来る場所を求めていただろう。さっき私はトンネルの暗闇で亡霊を見た。あの日の自分とすれ違うようで前髪で顔を隠した。
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