***chapter1***R

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“貴方の真っ直ぐさが尊い” ・・・敵わないと思った。 この言葉を選んで 彼に伝えた美夏さんには。 その話を聞いた瞬間に そう思わずには居られなかった。 彼はライブを中心に活動していて 本当にライブが好きで、 応援してくれるファンを 大切にしていて、 ツアー半年前から肉体改造のため 厳しいトレーニングと減量に励み 時間の無い中で 毎日の過酷なリハーサルを経て、 ツアーに臨む。 そんな積み重ねで作り上げている 一つの空間の中心で、 身を削るように唄う彼にとって。 そんな人間にとっての ステージの上は 神聖な場であるはず。 高いお金を出して 唄を聴きに来てくれたファンには 最高の時間を提供したい と思いながら全力投球で 全てをかけてパフォーマンスに 身を注いでいるはず。 …会場の客に唄の最中で 写真を撮られるという事は、 唄や、来てくれたファンや 力を貸してくれるスタッフ達と 真摯に向き合う彼を傷つけるには 充分すぎる出来事だったはず。 おそらく彼の心は 苦しさでギシギシと 音をたてていたのだと思う。 誰かがヘタに慰めようものなら、 彼の心は言葉を跳ね返しよりいっそう硬くなって 閉ざしていったと思う。 そんな状況で 美夏さんの放った一言は、 どれほどの陽ざしと安らぎを 彼にもたらしたのだろう。 彼女の選ぶ言葉は、 その声質は、 まるで聖母の様に強く、温かく しなやかで、朗らかに …彼の心に降り注いだのだろう と想像できてしまうほどだった。 そしてそれは、 デビュー前からずっと 彼を陰で支えてきた彼女しか 生み出す事の出来ない センテンスだと感じた。
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