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4階建てのマンションだけど、 4畳半の1K。 シンさんが私の家に来るのは、 何カ月ぶりくらいか。 「相変わらず狭いな。 お前ん家来ると 自分が上京してきたばっかりの頃 思い出すわ。」 『狭くてすいませんね。 まあ、適当に座っといて ください。 コーヒー、ブラックで 良いですか?』 「おう。サンキュー。」 そう言いながら、シンさんは 私の定位置の白い座イスに ドカッと座る。 そして テーブルの上にあった雑誌を 物色している様子。 私はコーヒーを落としながら 独特の香りに鼻をきかせる。 荒引きのモカブレンドが最近の お気に入りだったりする。 昔はコーヒーなんて苦い物 飲めるようになるはずがないと 思っていた。 自分には縁のない飲み物だった。 でも歳を重ねていくと いつからか、 ブラックしか飲まない自分に なっていた。 ブラックコーヒーより 苦い現実を見たから たぶんコーヒーの苦ささえ、 苦みに感じなくなったのかも。 …そうやって人は順応していく。 そうやって 人の感覚もだんだんと 麻痺していく。 よくも、わるくも。
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