***chapter1***R

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沈黙が続く。 どんな言葉が欲しいだろう。 根拠のない 勘に基づく励ましなんて きっとこの人には 何の効果も持たない。 でも、シンさんの悲しい顔は 見たくなかった。 この人を こんな風にしてしまう美夏さんに ほんの少し苛立ちを覚え、 …それ以上に 羨ましさを感じてしまった。 醜い自分に 嫌でも気づいてしまう。 私の心がギュっと 音をたてた。 瞬間、私の身体は勝手に動き シンさんの隣へ座り、 俯いたままの彼の背中をさすり始めた。 …時々私は、行動を起こしている 自分から遠ざかっているような 感覚になる事がある。 自分がまるで 夢や映画の世界に 生きているような、変な感覚。 誰に説明してもこの感じは 上手く伝えられないんだけど。 この時もそうだった気がする。 シンさんは動かないまま。 私の手がゆっくり背部を擦って 衣類の擦れる音が、 夜明け前の静かで小さな部屋を 強調させる。 普段はあんなに 大きくて威厳ある背中が、 まるで道端に置き去りにされた 子犬みたいに 小さく感じて、切なくなった。 私はこの人の こういう弱い部分に 親近感を抱く。 …人間っぽくて。 若くして 会社を設立していた事もあって 物事をはっきり筋を通していく この人は 周りからはよく男らしいとか強い人とか言われている。 だからこそ 周囲からの期待は大きい。 社員の前では こういう部分は見せられないし、 見せたくないんだと思う。
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