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行き場のない切なさを
隠すために、
私の声帯はゆっくりと、
少し掠れた声で、
鼻歌を唄い始めた。
我ながら呑気な行動だったと
後になって思う。
『…HuHu~HuHuHu~・・~♪』
ワンコーラスを歌い終わると、
ゆっくりと、ちいさな声がした。
「・・・ っりがと。」
『・・・どういたしまして。』
何事も無かったように
私の声は
続きを唄い始める。
選曲は、古い曲。
…かなり、古い曲。
シンさんが好きだった
という歌手の。
真っ直ぐ過ぎて
ボロボロで
悲しい愛の曲。
…これは
初めてシンさんに逢った日、
私が唄った曲。
なんだか、私の方が
癒されてく気がした。
シンさんの
偽りのない魂が
綺麗過ぎるから、
私の醜さも汚い部分も
どうにもならない切なさも…
全て
洗い流されてゆくようだった。
鼻歌を唄い終えてからも
私の手は
シンさんの背中を擦り続けた。
彼の背中から私の左手に
伝わっていく熱が、
時間さえも忘れさせた。
・・・そうして、
どのくらい経ったのだろう。
背中に触れる手を止めぬまま、
ヒソヒソ声で、
話しかけてみた。
『・・・シンさん?』
「・・・」
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