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退屈で、少し眠い春の終わり。
ぴょこぴょことジャンプしては、短い腕をぴんと伸ばす。
私の強敵『黒板』は、人一倍背の低い私を馬鹿にしているみたいだ。
私が一番上の行を消すべく、悪戦苦闘をしていると
「あ、美依じゃん。
今日は日直?」
軽やかな声が耳に届いた。
「へっ?」
不意に頭上から降る声に一瞬どきりとする。
「奇遇だねー。俺もだよ」
顔を上げればいたずらな笑みを浮かべる柏木君。
「もー、今思い出したんでしょ」
「ワリ」
「今3限目の休み時間だよー?」
柏木君仕事ないじゃん、とごねれば
「じゃあこっからは俺の仕事ってことで」
にまっとした笑みで柏木君は私の黒板消しを奪った。
「え?
なっ……」
柏木君の腕は、私が手を伸ばしたって届かなかった黒板の文字に向かう。
……もしかして、私の代わりに消してくれた?
近くで見ればよくわかる、自分よりも高い身長や広い背中に少し心拍数が上がる。
「次の授業からは黒板やるから、美依は日誌書いててよ」
「あ…ありがとう」
優しい声色に、思わず口元が緩む。
ぽんぽんと頭をなでてくる柏木君の掌の感触に、私の頬は薄紅色に染まっていった。
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