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――その時、きっとその場にいた誰もが。
赤いバラの如く咲き散れる、フィオの姿を想像した。
「フィオォォォォォ!」
手にマグノリアを携えた彼――エイダ=フォン=トゥーイットは声の限り絶叫した。
蛇の怪女、オアムが操った白槍は確実にフィオレンティーナ=レガルタスの左胸を突き刺し、その切っ先は肺や内蔵を貫通し、滑らかな肌もつ背中から飛び出している。
びくん、と空中に留められたフィオの華奢な身体が大きく震えた。
「――ギャハハハハ!」
蛇の下半身を持つ、巨大な女オアムが赤黒い喉仏を晒しながら勝ち誇るように嘲笑する。
「穢らわしい神への『贄』は我が手に有りや! なんぞ他愛もないことよの!」
艶のない白髪を振り乱し、長く赤い爪の指先で空のフィオを乱暴に掴んだ。
フィオは人形のようにされるがままだ。背中まで槍に貫かれて、地上にいるエイダからは表情を伺い知ることはできない。
だが、そこでようやくオアムは気付いた。
――白い肌を槍が破っているのにも関わらず、フィオからは一滴の血液も流れていないことに。
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