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「――フィティス!?」
思いがけない名前に、エイダは痛む頭を抱えながらオアムを見上げた。
オアムは、凍っていない腕で、灰のような白髪を必死にかきむしる。すでにフィオを握っている手から肩、鎖骨にかけては完全に凍りついており、動かすことすらできないようだ。
「フィティス! フィティィィス!」
――ドォォォオォンッ!
オアムの呼びかけにようやく応えた蒼い雷が、オアムを脳天から包み込む!
爆発したような音と光、そして爆風がアルフィークの森を揺さぶった。エイダとアーヴは堪らず頭を伏せ、腕で顔をかばう。
――ギィオォン……!
何かの機械が発動したような音がして、暴風収まらぬ中、エイダは無理矢理目をこじ開けた。
そこには、青い火柱が地上から天空までを貫いていた。
青白い軌跡で描かれる転成陣がいくつもいくつもオアムの周りを取り囲み、周りを回っている。
(まさか――あんな大きなひとを運ぶ気ですか!?)
フィティスが転成の魔法を得意としていたのは以前見せつけられたが、オアムを運ぶとなると通常の比ではない。
だが、エイダの困惑は現実のものとなる。
青い火の中、オアムの巨体がゆっくりと地上から離れた。
そこからは、一瞬の出来事だった。
吸い込まれるようにして空にぽっかりと空いた炎の穴へと上昇していき、その身体を追いかけるかのように炎は地上から消えていく。転成陣の跡がきらきらと滴のような青いきらめきを地上に振りまきながら、風が止んでいった。
「……行った」
自慢だったスミレ色の髪を汗と風でめちゃくちゃに崩しながら、呆然と佇むアーヴが自我消失したように感情のない声で言う。
ドスッ、と重い音がして、エイダの手を滑り落ちたマグノリアが地面に突き刺さった。
「――……フィオ……!」
膝から崩れ落ち、顔だけは天を向いたその様子は、まるで祈りを捧げているように見えたという――
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