11人が本棚に入れています
本棚に追加
視界が、狭かった。
ぶくりと腫れ上がった両の瞼が、憂木の眼を開けさせるのを遮っている。
左の眼球は、白目の部分全てが赤く染められていた。
ようやく目を見開いた憂木に見えたのは、コーナーポスト前に腰掛け、バケツに足を突っ込んだ冴島の姿だった。
「起きたか」
すっきりした表情で、冴島は呼びかけた。
傍らにはボックが佇んでいる。
「旗揚げ延期だな、こりゃ」
まだ意識が朦朧としている憂木は、冴島の言葉の意味は理解出来なかった。上半身を起こし、冴島へと向き直る。
未だ闘争心をくすぶらせ続ける憂木の眼を覗き込んだ冴島は、もう勘弁してくれと言わんばかりの苦笑を浮かべた。
「あのな、憂木よ。俺、新しい団体興すんだわ。」
突然の話に、憂木はぽかんとしている。
「お前も、プロレスは飽きたろ。ウチに来いや。」
最初のコメントを投稿しよう!