一章 ~選択~

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   視界が、狭かった。  ぶくりと腫れ上がった両の瞼が、憂木の眼を開けさせるのを遮っている。  左の眼球は、白目の部分全てが赤く染められていた。  ようやく目を見開いた憂木に見えたのは、コーナーポスト前に腰掛け、バケツに足を突っ込んだ冴島の姿だった。 「起きたか」  すっきりした表情で、冴島は呼びかけた。  傍らにはボックが佇んでいる。 「旗揚げ延期だな、こりゃ」  まだ意識が朦朧としている憂木は、冴島の言葉の意味は理解出来なかった。上半身を起こし、冴島へと向き直る。  未だ闘争心をくすぶらせ続ける憂木の眼を覗き込んだ冴島は、もう勘弁してくれと言わんばかりの苦笑を浮かべた。 「あのな、憂木よ。俺、新しい団体興すんだわ。」  突然の話に、憂木はぽかんとしている。 「お前も、プロレスは飽きたろ。ウチに来いや。」  
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