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「ルールは」
背を預けたロープをしならせ、体を軽く反らしながら、冴島は憂木に問いかけた。
「別にいいんじゃないスか」
憂木は自然と口をついた丁寧語を軽く悔いながら、言葉を続けた。
「何でもありで」
冴島の動きが一瞬止まった。
冴島が、ボックを見やる。
ボックはニヤリとし、冴島はそれを理解したかの様に笑みを返した。
「何でもあり、だな」
そう言い放って、冴島は憂木に向かい歩き始めた。
まるで試合前に互いを称え合う握手でもするかの如く、何の躊躇もない歩き方だった。
憂木は、その間合いに届く前に身を屈め、地を蹴って冴島へと飛び込んだ。
胴タックル。
否、もっと低い位置へ。ラグビーのタックルの様に、相手の重心を崩す両脚へのバインド。その動きは素早かった。
憂木の視界に突如飛び込んだ、黒い大きな塊。
冴島の右膝が、憂木の顔面を蹴り上げた。
めきゃっ。
音が聞こえ、衝撃が走り、憂木はキャンバスに仰向けに叩きつけられた。
失いかけた意識を取り戻す。身体の感触が、徐々に蘇る。
どろっとした生温かい物が、鼻の奥に溢れ出しているのが分かった。
鼻の軟骨を折られた。
じわじわとやって来た鈍い痛みによって、憂木はようやくその事実に気づいた。
そして、冴島が既に自分の上に覆い被さっていたことも。
冴島の上半身は、憂木の横からどっしりと、その重さを預けている。
憂木の左腕は、冴島の両脚に絡め捕られている。
ちょうど、柔道でいうところの袈裟固めに似た体勢となっていた。
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