一章 ~選択~

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  「ルールは」  背を預けたロープをしならせ、体を軽く反らしながら、冴島は憂木に問いかけた。 「別にいいんじゃないスか」  憂木は自然と口をついた丁寧語を軽く悔いながら、言葉を続けた。 「何でもありで」  冴島の動きが一瞬止まった。  冴島が、ボックを見やる。  ボックはニヤリとし、冴島はそれを理解したかの様に笑みを返した。 「何でもあり、だな」  そう言い放って、冴島は憂木に向かい歩き始めた。  まるで試合前に互いを称え合う握手でもするかの如く、何の躊躇もない歩き方だった。  憂木は、その間合いに届く前に身を屈め、地を蹴って冴島へと飛び込んだ。  胴タックル。  否、もっと低い位置へ。ラグビーのタックルの様に、相手の重心を崩す両脚へのバインド。その動きは素早かった。  憂木の視界に突如飛び込んだ、黒い大きな塊。  冴島の右膝が、憂木の顔面を蹴り上げた。  めきゃっ。  音が聞こえ、衝撃が走り、憂木はキャンバスに仰向けに叩きつけられた。  失いかけた意識を取り戻す。身体の感触が、徐々に蘇る。  どろっとした生温かい物が、鼻の奥に溢れ出しているのが分かった。  鼻の軟骨を折られた。  じわじわとやって来た鈍い痛みによって、憂木はようやくその事実に気づいた。  そして、冴島が既に自分の上に覆い被さっていたことも。  冴島の上半身は、憂木の横からどっしりと、その重さを預けている。  憂木の左腕は、冴島の両脚に絡め捕られている。  ちょうど、柔道でいうところの袈裟固めに似た体勢となっていた。  
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