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冴島の左腕は、憂木の首をぐるりと抱えこんでいる。
憂木はその懐中で、鼻腔から喉へととめどなく流れ込む鼻血にむせび込みながら、冴島の重さに抗っていた。
冴島の両脚に捕えられた、左肘を極められないよう、必死にポイントをずらしながら。
冴島が徐々に腰を反らしていく。憂木の左腕がぴんと延ばされていく。
みりっ。
左肘の靱帯が、音を立て始めた。
――壊される。
そう覚悟した刹那、ロックされていた左腕への力が、ふっと解けた。
憂木の首に回してした腕をほどき、冴島はすっと立ち上がった。
寝そべったまま冴島を見上げる形となった憂木に、屈辱と怒りの感情が一気にこみ上げてきた。
「立てよ」
口の右端を吊り上げ、冴島は嘲りの笑みを浮かべている。
膝立ちの体勢から、冴島との間合いを取るように後退りし、憂木は立ち上がった。
もっと、疾いタックル。絶対の自信を持つこの技術で、あの男を倒す。有利なポジションを確保する。肘か。肩か。いや、足首を捕るか。そう見せかけて、膝関節を極めるか。
憂木は、冴島の周囲を時計回りに移動しながら、じりじりと間合いを詰めていく。
「来いよ。ナンデモアリ、なんだろ」
顔面のガードを固めたまま、冴島の懐に飛び込む姿勢を作り、憂木は左足を半歩踏み出した。
ばしっ。
冴島の、鋭いローキックが、憂木の太腿を打つ。
ばしっ。
ばしっ。
動きを止められた憂木の脚へと、続けざまに放たれる蹴りは、重く、的確に、ダメージを与える。
憂木の両腕が、徐々に下がっていた。
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