11人が本棚に入れています
本棚に追加
巨大な男が、憂木を見下ろしている。
右手に真鍮製のバケツを提げ、うっすらと笑みを浮かべたまま、憂木を見下ろしている。
その背後に、見慣れた天井があることで、憂木は自分が仰向けであることを知った。
顔面に、焼かれるような痛みがあった。
しかし、それを上回る下腹部の重い痛みが、憂木を支配している。
顔が、前頭部が、ぐっしょりと濡れている。
俺はこの男に鼻を折られ、金玉を握られ、水をぶっかけられたのか。
屈辱。そしてすぐに湧き上がった、怒り。
「ぬがっ」
憂木は自分の肩のあたりに立っていた、冴島の左足首を抱え込んだ。しかし、それは憂木の懐からするりと抜け出した。
身体を起こし、なおもそれを追おうとする憂木を、冴島はからかう様に足をスライドさせ、あしらう。
「まだ、気持ちは折れないってか」
冴島は持っていたバケツをリングの外へ放ると、憂木との間合いを取り、構えを固める。
足元をふらつかせながら立ち上がろうとする憂木の腹へと、冴島のミドルキックが放たれた。
ぐぼっ。
憂木の身体が大きく、くの字に折れ曲がる。
しかし、憂木は倒れなかった。
ミドルが、2発、3発と憂木の腹を打つ。
最初のコメントを投稿しよう!