一章 ~選択~

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   巨大な男が、憂木を見下ろしている。  右手に真鍮製のバケツを提げ、うっすらと笑みを浮かべたまま、憂木を見下ろしている。  その背後に、見慣れた天井があることで、憂木は自分が仰向けであることを知った。  顔面に、焼かれるような痛みがあった。  しかし、それを上回る下腹部の重い痛みが、憂木を支配している。  顔が、前頭部が、ぐっしょりと濡れている。  俺はこの男に鼻を折られ、金玉を握られ、水をぶっかけられたのか。  屈辱。そしてすぐに湧き上がった、怒り。 「ぬがっ」  憂木は自分の肩のあたりに立っていた、冴島の左足首を抱え込んだ。しかし、それは憂木の懐からするりと抜け出した。  身体を起こし、なおもそれを追おうとする憂木を、冴島はからかう様に足をスライドさせ、あしらう。 「まだ、気持ちは折れないってか」  冴島は持っていたバケツをリングの外へ放ると、憂木との間合いを取り、構えを固める。  足元をふらつかせながら立ち上がろうとする憂木の腹へと、冴島のミドルキックが放たれた。  ぐぼっ。  憂木の身体が大きく、くの字に折れ曲がる。  しかし、憂木は倒れなかった。  ミドルが、2発、3発と憂木の腹を打つ。  
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