一章 ~選択~

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   前のめりになった憂木の側頭部をめがけ、冴島の右ミドルが放たれる。  ぱん、という乾いた打撃音が、ガレージに響いた。  蹴り抜かれた頭を大きく横に傾げた憂木の眼は、既に宙をさまよっている。  意識が飛んだか。  冴島がそう思ったのは、続いて放たれた左ミドルが憂木の顔面を捉えようとする、その刹那だった。 「!?」  冴島の左脛に響くはずの衝撃が、なかった。  憂木は!?  思うと同時に、冴島は前のめりに倒され、顔面をマットに打ちつけていた。  蹴りをくぐり抜けた憂木が、その蹴り足を捉えながら自分の股下へと潜り込み、足を背負って投げた――冴島がそう解るのと、足首からの強烈な激痛に気づいたのは、ほぼ同時だった。  憂木が、虚ろな眼をしたまま、冴島の足首を胸元に抱え込んでいる。  ヒールホールド。  冴島の痛みに呻く声が、微かに憂木の耳へと届く。  
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