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「新団体……ですか」
「おう。俺を含めて、9人集まった。お前が来てくれりゃ、一興行で5試合は組める」
「でも、タッグマッチとか……」
冴島はにやりとした。
「あのな、たった10人の団体だぜ。でかいところと同じことやって、客が呼べると思うか?」
憂木は被りを振る。
「ウチがやるプロレスはな……お前が一番やりたがってるヤツだ」
まだ鈍く痛む鼻を気にしながらも、憂木はその言葉の意味を考えた。
「道場でやるプロレス、ってこと……ですか」
冴島は細く腫れぼったい目を見開き、次いで人懐っこい笑顔を見せた。
「ガチで、強くなりてえんだろ」
憂木は、冴島から目線を外すことなく、ゆっくりと頷く。
「国原さんも、来ることになった」
国原良樹。JWA所属のベテランレスラー。道場では圧倒的な強さを誇り、彼を崇拝する若手も多い。このボック道場の主席とも言われた男である。
しかし、観客にアピールする華やかさに乏しく、今でも前座の地位に甘んじている。
「マジっすか!?」
憂木は、海外修行を終えたら、真っ先に道場で国原とスパーリングする事を楽しみにしていた。
今の自分ならば、あの国原さんから一本は奪えるはず――それを目標に、ボックの気違いじみたトレーニングに耐え抜いてきたのだった。
「ああ。JWAとの契約更改の場で、辞表を差し出したそうだ。フロントは、慰留もせず受け取ったと。……現場を知らねえ背広組は、国原さんの強さなんか知ったことじゃねえってな」
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