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西から吹く柔らかな風が、男の頬を撫でてゆく。
まだ冷たさの残る春風であったが、それが火照った男の身体から、纏わりつく熱気を運び去ってくれる。
男は、ログハウスの入口の脇に無造作に置かれたベンチに、前屈みに腰掛けていた。
両の肘を太腿に乗せ上半身を預けながら、遥か遠くまで連なる草原を、見るともなく眺めている。
額から吹き出す汗が、目尻を、鼻筋を、こめかみを伝い、顎から滴り落ちる。大きく開いた両脚の間に、その汗が水溜まりを作り出していた。
芽吹いたばかりの、一面の草たちが、気紛れな風に吹かれ、時に規則正しく、また時にバラバラに揺れ動く。
男はその眺めを、かつてリングの上から見ていた、興奮がピークに達した観客達の動きへと、いつの間にか重ねていた。
――もう、日本を離れ、一年半になるのか。
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