二章 ~矜持~

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  「何だってんだ、こんな餓鬼がよぉ」  80年代のポップスが緩くかかる店内に、嶋田龍一の野太い声と、続いて雑誌をテーブルに投げ出す音が響いた。 「格で言えばよ、俺はもちろん、お前ぇだってコイツより上だろうが。それにしちゃ、扱いに差があり過ぎじゃねえか」  そうまくし立てながら嶋田が指差したページには、憂木の記事があった。  JWAのフロントが計画していた大掛かりな凱旋試合と、その後に約束されていたであろうスターとしての扱いを蹴り、憂木は会社と決別した。  その去就は、噂される新団体への移籍ではないかという憶測――実際にはマスコミも既知であり、冴島が口止めしているだけなのだが――その記事に、この嶋田龍一と、向いの席にどっかりと腰を下ろしている笹本淳の名も書かれていた。ただ、写真入りの憂木とは違い、「WWWからも流出か!?」という小さなアオリの後に数行だけの記事だった。 「どっちが気に食わないんですか」  その怒りを『週刊リング』にぶつけているのか、それとも憂木なのか――笹本は半ば冷ややかに、先輩である嶋田に問うた。 「どっちもだ、馬鹿野郎」  一段と迫力を増した嶋田のだみ声に、カウンターでグラスを磨くマスターの肩が軽くびくついた。
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