二章 ~矜持~

5/9
前へ
/29ページ
次へ
  「好きったってよ、ファンでいりゃ良かったものを……何でそれを職業に選んだんだ? お前さん、大学からアマレスの引き合いが凄かったらしいじゃねえか。 オリンピックも間違いねえ、メダルにも手が届くってぇ言われてた逸材がょ」 「レッレスリングは…」  明神は、自分の声が少し大きくなったのに驚くと、トーンを落とし言い直した。 「レスリングをやってたのは……プロレスラーになるためでした」  国原の、右の眉と唇が少し吊り上がった。 「俺、昔っから強くなりたくて……虐められてたんです。だから、プロレスラーに憧れて……」 「んで、夢は叶ったって?」 「いっ、いや……」 「だよな。お前さん、ココが弱すぎだもんな」  そう言って、国原は自分の左胸を指した。 「道場じゃ格下扱い、リングに上がりゃファンに野次られる。ショウシン武士ってな」  明神は再び縮こまる。 「自信持てや。俺のスパーに付いてこれるのは、もうJWAには居ねえんだぜ。俺がお前さんを引き連れて、冴島んトコに行っちまったからな」 「でっでも俺、国原さんにタップさせた事、ないですから……」  国原は大きな笑い声を上げた。 「馬鹿野郎、そう簡単に取らせるかよ。だけどな、お前さんかなりいい線行ってるぜ。俺もさすがにヤバいって思うコト、何回もあったからな」 「ホントですか」 「ああ。今だから言うけどな。もうちょい磨きゃあ、もうシュートでお前さんに勝てるヤツは居ねぇよ」  明神の顔が綻んだ。 「じゃあ……憂木さんにも勝てますかね」 「当たり前だ。アイツを死ぬほど可愛がってやった俺が言うんだから、間違いねえよ。 アイツがどんだけ、ボック先生に鍛え上げられてるかは知らんがな」
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加