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夏の到来を思わせる、重く湿った熱気は、陽がすっかり暮れた後もその道場を包み込んでいた。
板張りの床に、男達の迸らせる汗が無数の水滴を作り出し、やがて重い空気へと溶け込んでゆく。
開け放たれた障子戸から、月光が差し込んでいる。灯りはない。
ほの暗い道場の中央で、組み手を幾度と繰り返す二つの影を、作務衣姿の男が見守っている。
闇に光るその眼は、鋭かった。
獲物を狙う、野生のそれではない。厳格さと、その奥に慈愛を湛えた眼である。
だん、という音とともに、一つの影が小さくうずくまる。その一端を捉えたもう一つの影が、それを引き千切らんばかりに、伸ばしにかかる。
ぐうっ、と嗚咽が漏れた。
「止めい」
憂木珪太は、ひと呼吸おいて、絡めた腕をほどくと、再び間合いの外へと歩を進めた。
左肩を庇いながらその場にすっくと立ち上がったのは、憂木よりゆうにひと回りは小さい男だった。
夏目恵一。
JWAでは、憂木の4年先輩になる。
「……ってぇ…。オマエ、もうちょい手加減しろよ。旗揚げ戦の前にブッ壊されたんじゃたまんねえよ」
憂木の瞳の奥から、緊張の色がふっと消える。
「済みません」
「謝られても調子狂うけどなあ」
作務衣の男が半歩踏み出し、静かに口を開く。
「この位にしておきましょうか」
二人は男に向き直り、深く会釈する。
「ありがとうございました」
ふう、と深く息を吐き出したのは、夏目の方だった。
「今日は、取って取られてが三本ずつか。しかしオマエ、吸収早えぇなあ」
「恵一さんにここ連れてきてもらって、本当良かったです」
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