~日常~

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 ゆっくりゆっくり降りていくエレベーターの中は静寂に包まれ、人工的な音が耳に響く。腕を組み、壁に凭れて待っていると、一階に着いたことを知らせる音楽が鳴った。重く閉ざされていた扉が開き、エレベーターから降りる。  真っ直ぐ見つめる先には身の丈を越えるほど大きなガラス製の自動ドアがあり、自動ドアの向こう側ーーその先は、街の明かりが雨で濡れたコンクリートの地面を寂しく照らしていた。  肩から擦れ落ちてきた鞄を持ち直し、横目で右端にある待機所と書かれた部屋を一目すると、四十代くらいの警備員は政治関連のラジオを聞きながら缶コーヒーを飲んでいる。  ラジオに夢中なのだろうか、自動ドアから出ようと歩みを進める俺に最後まで気づく事はなかった。  自動ドアを抜け、外に出るとさっきまで降っていた雨は止んでいた。地面にはいくつもの水溜まりが出来ていて、ドット柄のキャンバスだ。鼻に残るような雨上がりの匂いは微かだが鼻腔を刺激する。疲労で悲鳴を上げる足を動かし、会社の外にある駐車場に向かった。
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