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(契約違反だと思われるかもしれませんが
この家賃で住める場所はありません。
もし、面倒見切れないと思ったら
早めに退去手続きをおすすめします)
「はぁ~……」
俺は思いっきり脱力した。
もう立つ事すら面倒になってしゃがみ
痒くもない髪をグシャグシャと混ぜた。
不動産の人が言っていた事も思い出すと
安易に判を押した俺にも非はある。
やばい、これじゃ貯めていた貯金も
簡単に底をつくんじゃ……。
でも、1からやり直したくて家具やら
服も最低限を残して全部捨てた。
後には引き返せないし、今さら戻る
つもりもない。
職の無い人間を笑ってで迎えてくれる
場所がある筈もなく、帰る場所の無い
今の俺にはこれぐらいの窮地から
始まった方が良いのかもしれない。
「まぁ黎があんさんになつけば家具代の
5割はこちらからプレゼントさせて
もらうから、深く悩まんようにな」
管理人さんは俺に目線を合わせると
掻き乱した髪を整えるように撫でられ、
その手は思いの外冷たかった。
「悩みますよ普通」
立ち上がりため息をつき、まだほんのり
暖かい缶珈琲を管理人さんに渡した。
思いがけない物を持たされたからか、
缶珈琲を見るとクスッと笑っている。
「君も契約違反だと思うかい?」
改めて聞かされる言葉に首を横に振り、
この笑えない冗談だとしても言うべき
猫の正体を知った俺自信、彼の口から
「おかえり」と言って貰えるのなら、
これはこれで有りなんじゃないかと
受け止め始めていた。
「いいえ、でもどうせなら同居人有りと
明記して欲しかったです」
「おや?君は同居人有りと明記しても
此処へ来たと言うのかね?」
「相手が黎君なら俺は問題なく来ました。
何ならもう少し手土産を持ってね」
「それは惜しい事をしたのぅ~」
どうしてこんなやり方をしてまで
お孫さんの面倒を誰かに託すのかは
想像つかないが、でも、どこかしら
喜んでくれているようなので今は何も
聞かずにそっとしておこう……。
ここにずっと居れば、いずれ……
関わらなくてはならない日が来る。
「でも、同居人有りと書く日は
しばらく来ないでしょうね」
「そうだね。君が来てくれたんじゃ、
ワシがくたばるまで大丈夫じゃろう」
おい、縁起でもねぇ……。
「ほっほっほっ。冗談じゃよ」
そうは言っているが、いつか自分に
何かがあって孫が1人になる事を考える
なら、誰でも良いから傍にいてあげて
欲しいと思うのがじいさん心……。
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