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「はっ…………なんてな」
もしも俺にそんな気持ちがあるのなら、わざわざ未だに失いたくない皆との記憶があるこの一週間前に戻ってきたりなんてしていない。
いやむしろ、この一週間前に戻って来てるからこそ、まだ俺は完全に壊れずにこうしてここにいられるのだと思う。
だがそれももう……限界が近付いてきている。
ムイをあれだけ痛めつけたのが良い証拠だ、昔の俺なら絶対にあそこまでやらなかった……でも今じゃ、あれだけやっても何も思わないし……むしろ楽しいとさえ思い始めている。
危険な奴に成り果てようとしてるのが自分でわかる。それも……自分の意志でそうなっても良いんじゃないかと思い始めてるくらいだ。
それが駄目な事くらいわかってる。でも……何でだろうな? どうでもよく感じるんだ。
そもそも何で駄目なのか? どうせやり直しになるのだから何をしようが結局関係ないじゃないか。
「何て……本気で思うようになったら終わりだな。まあそれでもいいけど」
「ゼラスぅぅぅぅうぅぅうううう!」
魔法訓練ドームから出て、暫く校内にあるベンチに座って呆けていると……物凄い怒りの形相をした鉄軌と、観客席にいるはずのプラム達が走って向かってきた。
「お前あそこまでする必要……っ!?」
「……黙れ」
そう言って、続いて俺の目の前で何かを言おうとしていた鉄軌の口を手で鷲掴みにして塞ぐ。
こいつが言おうとしてる事はもう大体わかる。「あそこまでする必要なんてないだろ!? 相手は女子なんだぞ!」だろう。見え見えだ……ムイの事が好きだからムイの好感度が上がるような台詞や行動を取る。
思春期の男子なら異性に対してよくとる行動の一つだ。
「ムイとの試合に関してなら、ムイが全力で来いって言ったからやっただけの事だぞ? それにあれは試合だ……普通だろ?」
そう鉄軌の耳元で呟いた後、ゆっくりと掴んでいた手を放して鉄軌を解放する。
「ゼラス……お前どうしたんだ?」
「別にいつも通りの俺だけど?」
「嘘つくなって! 何かさっきまで観客席にいた時と雰囲気が違うぞ、何かあったのか?」
説明した所でどうせ何も出来ないのだから、一々聞いてくるなよな……めんどくさい。
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