第七章 善は悪へ

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 例えその一つのエリアだけでも、俺達には対処しきれない程の数がいる。 「もう……無理なのか?」 「何がだゼラス? 早く行かないと私達の試合が両者とも棄権扱いになるぞ」  もう……流す涙も全て枯れた。俺に残された感情は絶望だけ。俺に残された思考はこのループの過ごし方のみ。  変に希望を持つから絶望するのだ。ならば最初から変に期待せず、残り一週間を自分なりに楽しんだ方がまだ…… 「おい! 聞いてるのかゼラス!? 早く行かないと私達の試合が始まっちゃうだろ!」  ループを繰り返し、気付いたら隣に立っていたムイが俺に向かってそう叫ぶ。……うるさい、耳元が痛いだろ。 「俺はいい……棄権する。お前の不戦勝でいい」 「は? 何言ってんだゼラス? 私がそんなの認める訳ないだろ! 逃げようとしても無駄だぞ! ちゃんと勝負しろ! そんなので勝っても私が嬉しくないだろうが」 「……うるせえな」 「え……? ゼラス?」  何も知らずに只自分の勝負への欲望を満たそうと甲高い声を上げるムイにイラつき、少しだけだが俺は感情を表情に出してそう呟いた。  駄目だ……そういうつもりじゃなくても、どうしても強く誰かに当たってしまう。ムイに怒りをぶつけるのはお門違いなのは分かっているのに。 「いや……悪い、何でもない。行こう」 「あ……うん。あ……あのさゼラス! 全力で来いよな! じゃないと私が面白くないからさ!」 「……分かった」  自信満々のムイのその台詞を聞いた後、俺達は魔法模擬戦闘大会の試合を行うため、何度目の入場かわからない魔法訓練ドーム内へと向かった。  私が面白くない……ね。絶対勝てると思ってるから言える台詞だよな……それ。その言葉を言われて苛立ちを覚える奴だっているのをわかってない。  それもムイが負けた悔しさを知らないからだ。今まで負けた……失敗した経験が無いからそうやって思い上がった発言が出来る。  折角の機会だ。敗北がどれだけ苦しいものなのか……俺が教えてやる。
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