第七章 善は悪へ

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 どうして俺がこんなのを使えるようになったのかはわからない。前兆はあった、最初にデジャブを感じていたのが未来予知の前兆だったのだ。  気付けば……身に危険が迫った時のみ、一秒先の未来が見えるようになったのだ。  未来予知は茂の専売特許の力……のはずなのに、まさか俺が使えるようになるとは思わなかった。無論……茂に比べたら性能も落ちるし、一秒先の未来も見る事も出来なければ、任意に未来を覗く事も出来ない。  それに、今更こんな力を手に入れたところで利用手段がない。この力を伸ばした所で遥か先の未来が見えないのは茂で証明されている。  まあ今更何があっても俺は驚かない。元々過去に戻るという謎過ぎる力を持っているのだ、それに俺がいくら強くなっても世界が救われる訳でもない。 「ま……まだ私はや……やれる!」 「駄目だ! 力の差がありすぎる……それに今私自身何回有効打が入ったかわからなかったんだ。戦闘続行を認める訳には……」 「まだやれ……」  ムイがそう言いながら、健気に戦う意志を見せようとした次の瞬間、俺はレールガンでつけた加速と風属性で強化した拳でムイのすぐ横の地面を叩きつけた。  拳が地面に触れると同時に、地面は大きな爆音を鳴らして地面の破片を上空へと巻き散らせる。 「寝ろ」 「…………ぁ……ぅぁっ」  そして俺はムイの耳元でそう呟いた。 「これ以上戦うつもりなら……次は今のをお前に当てる。わかるか? 俺はまだ手加減してるんだよ」 「そん……な」 「……っは、笑わせるよな……AクラスとかFクラスとかで人間を差別化しても、結局FクラスでもAクラスでも関係無しに力の差があるんだから」 「わ……私は別に! 差別なんか……!」 「気付いてないようだから教えてやるよ。Fクラスの方が強いと思われてる現状だと、FクラスがAクラスに好戦的なのは只の一方的な苛めか……もしくは馬鹿にしてるようにしか見えないんだよ」  それだけムイに伝えた後、俺はムイの耳元から離れて田村先生の下へと向かった。  良い薬だ、これで思い知っただろう。力の無い者が力のある者に一方的にいたぶられた時の気持ちを。どうしようもなく……只終わるのを待つだけの絶望感を。  尤も……俺は終われないんだけどな、永遠に。
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