第七章 善は悪へ

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「田村先生、俺の勝ちでいいんですよね?」 「あ……ああ、というより大丈夫かお前? 一体何があってそんな力を……」 「次の試合、俺は棄権します。だからといってムイを次の試合に回すような真似はしないようにしてください、惨めなだけなんで」 「ちょ……ちょっと待て! どうして棄権なんかするんだ! お前のその力があれば優勝だって狙える……」 「飽きたんですよ。この大会に……はっきり言ってつまらない」  それだけを伝えた後、まだ俺に向かって何かを言い続ける田村先生を残し、訓練ドームの外へと向かった。  その途中、 「ちょ……あれってAクラスの人だよな? あのムキムキの人と戦ってた」 「すげぇー……Fクラス相手に圧倒的だったじゃねえか、しかもあれって英雄の子孫の優勝筆頭候補だろ?」 「ていうか一試合の間に何があったんだ?」 「馬鹿、あの筋肉だるまと戦ってる時は手加減してたんだよあの先輩。Aクラスなのに……異常だわ」 「わ……私声掛けてみようかな」  等々、観客席からそんな声がちらほらと聞こえてきた。無論訓練ドーム内は静かだ、あまりにも大番狂わせな出来事に声も出ないのだろう。  最近分かってきたのだが、人ってのはころころと考えが変わる。今も一人が言っていたが『Aクラスなのに』とAクラスを差別化していた。  実際一人だけじゃなく、多くがAクラスを差別化している……でもAクラスがFクラスより優れている所を見せた瞬間、急に態度が変わる。  つまりこいつらは俺達にレッテルを貼っているのだ、Aクラスだから駄目という。まあこれは人間だから仕方がない……と言えば終わりなのだが。それにそれは学校に始まった事じゃない。  でもイラつくよな……こっちは必死になって世界を救おうとしてるのに、能天気にあれが凄いだのあれは凄くないだの。  お前らが今まで俺を差別してきた事実は消えないんだぞ? なのによくもまあそんなコロコロ考えを変えれるもんだ。レッテルが剥がれたからか? お前らは人と接するのにレッテルを気にするのか?  おまけに騒ぐだけ騒いで、世界が終了したら俺がやった事の記憶を無くしてまた……やり直し。その時はまた俺の剥がれてないレッテルを糧にして差別する。  どうせ全部消えてやり直しになるんだったら…………いっそ俺がこの手で消してやろうか?
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