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暗い闇の中に、携帯電話の白く細い明かりが、チラチラと部屋の中を照らしていた。 マナーモードのままでキー操作をしている人物は、口元を歪ませ微かにほくそ笑んでいた。 その姿を傍目から見れば、不気味以外の何者でもない。 静まり返った部屋の中で、ひたすらにカチカチと小さな音をたてながら、黒い文字を打ち込む。 ストーカー小説家と名乗っているその人物は、円香からは“犯人”と呼ばれている存在であった。背中には、黒く重々しい影を背負っている。 犯人は携帯をいじっているが、決してメールを打っているのでは無かった。 書いているのだ。 小説を。 丁寧に執筆されてゆくその作品は、ただ一人に向けられて綴られてゆく。 ある小説投稿サイトを見つけ、クリエーターという機能を使用して執筆していたのだ。 そこに書かれた内容は市販されている書籍のように、一つの本として表示される。 もう、どのくらい経ったのだろうか。 犯人は既に、数十ページにも及ぶ執筆を終えていた。 元々携帯小説と呼ばれる物を読んでいた犯人の好みは、ホラー、ファンタジー、ノンフィクションなど。興奮を覚えるような作品ばかり。 非現実的な感覚を味わいたい。 犯人にとって、それは生きる上で最も重要な事だった。 暗く閉鎖的な環境で暮らして来た為、冒険やファンタジーはひたすらに読み耽った。自由を求め、自由に憧れていた犯人だからこそ、不思議な世界へと入り込める小説を好んでいたのかもしれない。 しかし、そういったジャンルは、得てして夢や希望、成長をテーマにかがけており、暗くジメジメとした世界に生きてきた犯人からすれば、どこか物足りなさを感じてしまう。 その為、スリルや人間の影をより濃く描いたホラーやオカルトが、一番自身に合っている事を自覚し読んでいた。 既に悪魔に魅いられている事を、自覚していたのだ。そのせいで、性格まで歪んでしまった。 だが、これが本来の犯人の姿だった。 そんな犯人がサイトと言う世界の中で見つけた小説を、今度は自らが執筆に至ったのには、訳があったのだ。
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