第一幕:プロローグ

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『プルルッ……』 会社に電話をかけると、すぐに呼び出し音が聞こえる。 お願い出て! お母さん! 私の手が震え、汗で携帯が濡れる。 『はい。坂野エンタープライズ、担当の岩下です。御用件をどうぞ』 電話に出たのは女性だった。 「あ、あの、内藤と言います。そちらに母の、内藤 恵子(ないとうけいこ)はおりますでしょうか? 私、娘です」 普段使わない敬語で、問い合わせてみる。 『あっ、内藤さんの娘さん? 実は、出勤されてないのよ。それどころか――』 カタンッ 私の手から携帯が滑り落ちる。 お母さんが仕事に行ってない……。 今朝の母とのやり取りを思い出してみる。何も言って無かったし、出勤する為に身支度をすませていた母。 それに、普段と変わらず朝食を作ってくれた。体調も悪そうには見え無かった。 全ていつも通りだったのに。 『内藤さん? 大丈……』 ピッ 携帯を拾い上げ、電話を切る。 母の身に、何かあったのは間違い無かった。
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