保健室の××な事情

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「あ、葵センパイ……」 自分でも何を言おうとしていたのかわからない。 だけど、体が勝手に動いて、葵センパイのブレザーの袖をしっかりつかんでいた。 「ミーコ」 私から離れかけていた葵センパイは、私を見た途端、驚いたように目を大きく見開いた。 「やばい……。可愛すぎなんだけど」 葵センパイはすぐに嬉しそうに目を細めた。 「せっかく我慢したのに。……自分がどんな顔してるかわかってる?」 「わ、わかんないです」 引き寄せられて、ぎゅっと抱きしめられる。 「目を潤ませて、顔も真っ赤で……。そんな顔で見られたら、我慢できなくなる」 ドキドキと鼓動がうるさいくらい騒いでいる。 私の頬を葵センパイの手が、優しく包むようにして――、 「あーっ! 不純異性こーゆーしてる人がいる」 唇が重なり合う直前、その脳天気そうな声が響いた。 「なっ!」 「……っ」 驚いて振り向いた先で笑っている人物は、その姿を見る前からわかっていた。 脳内常春な木下センパイだ。 キスの直前で邪魔が入るのは、もうお決まりなパターンだけど。それにしても相手が嫌すぎる。 ドアから顔だけ出していた木下センパイは、笑いながら生徒会室に入ってきた。 完全に今の状況を楽しんでいるみたいだ。 「ねえ、葵。生徒会室で女の子に手ぇ出しちゃいけないってルールを知らないの? 美月が可愛いのはわかるけど……仕方ないなぁ」 「青葉にだけは言われたくねぇよ!」 「どうしてだよ」 「そのルールを一番破りそうなのは青葉だろ」 「失礼だなー。俺は生徒会室に女の子を連れ込んだりしてないって」 葵センパイに睨まれた木下センパイは、心外そうな表情を浮かべたまま肩を竦めた。 「俺が連れ込むなら、空き教室かバスケ部の更衣室か……、あとは保健室とか? それから……」 「もういいから黙れ」 「そう? 葵にも参考になるかと思ったのに」 木下センパイはゆるく唇の端を上げながら私を見た。
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