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「うう……」
葵センパイは、ずるい。
そんなふうに可愛くお願いされて、嫌って言えるわけないのに。
熱くなってきた頬を隠したくて顔を背けると、下から楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
「可愛いすぎ」
葵センパイは機嫌良さそうに目を細めている。
どうやら、私は葵センパイにからかわれていたみたいだ。
「からかうなんて酷いです」
「ミーコの顔、真っ赤になってる」
「……なってないですよ」
なんだか悔しくて強がってみせると、葵センパイは「そーいうことにしといてやるよ」なんて言いながら、もう一度笑った。
――どうやら私は、今日も葵センパイに完敗みたいだ。
「照れたミーコをずっと見ていたい気もするけど、いい加減、仕事しないとヤバイか」
「そうですよ。……って、やっぱりからかってたんだ」
じっと睨んでみても、返ってくるのは悪戯っぽい微笑みだけだ。
葵センパイは仰向けになったまま腕を伸ばすと、するりと私の頬を撫でた。
「あんまりそうやって見んなって。キスしたくなるだろ?」
「せ、せんぱい。なんか変なものでも食べちゃったんですか?」
「なんでそうなるんだよ」
「だって、ちょっと前までの葵センパイって、照れ屋ですぐ赤くなってたのに……」
最近は、ほとんどそういう姿を見ていない。
私ばかり、いっぱいいっぱいになってるんだ。
「郁斗とか青葉に散々いじられてきたからな。多少、免疫だってつくだろ」
「原因は会長と木下センパイでしたか」
あのふたり、なんてことをしてくれたんだろう。
木下センパイには、ひとことくらい文句を言ってやらないと気がすまないかもしれない。
……会長には、怖くてなにも言えないけれど。
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