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とにかく、帝都まで指呼(しこ)の距離になり、普通なら安心するところなんだけど、帝都に近づくにつれ治安は悪くなる一方だった。
法を遵守(じゅんしゅ)すべき公権力がないのに、富と人間が集まっていることが原因だろうか。
そんな訳で、ソフィアは一足先に帝都で情報収集してきますと一人先行し、ヒューも今のうちに痛んだ馬具を修理すると出掛け、久しぶりにクレイと二人きりになった。
そのことに気付くと、なんだか妙にどきどきして、クレイの顔がまともに見られなかった。
今まで、ずっと戦場で寝食を共にしてきた相棒なんだけど、オレが女になってから、どうも変な感じだ。
「……あのさ、ちょっと外へ行ってもいい?」
今日の寝泊りについて、宿の主人と話しているクレイにぶっきらぼうに言った。
「……? 構わんが、この辺りは治安が悪いから気をつけろよ」
「大丈夫さ、めったな奴には負けないから」
「違う! 逆だ。お前の馬鹿力で相手に怪我させないか心配してるんだ」
冗談だとわかってたけど、オレはむっとして返答もせず表へ向かった。
う~ん、何故だろう?
今ひとつクレイとの間がしっくりこない。
そんなことを考えながら、通りへ出ると何だか騒がしい。
見ると一人の少女を人相の良くない連中が取り囲んでいる。
オレは足音を立てないように、そっと近づいた。
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