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黄砂が舞う。
人々は言うだろう、この光景は砂漠のようだと。
あるいは、衰退した文明を受け入れられず、見捨てられた都市なのか、と。
それほどまでにこの街、伯琉(はくりゅう)自然都市は崩壊を喫していた。
南北に横たわる竜のような島の上に、一億三千万の人々が暮らしていた。そのうちのちょうど、三千にあたる人々が住む伯琉市は、観光産業を主立った市政運用の柱とし、主要幹線道路である国道256線に植わる約一万本の桜並木は海からの眺望と相まって、「桜の潮道」と呼ばれるほど有名なものだった。
それが今、無惨に黒々とした木肌を晒している。
押し寄せる津波と『悪魔の七日間』と呼ばれた強酸性の雨は、ことごとく生物の息を止め、色彩鮮やかに咲き誇る花をなぶり潰し、青々と酸素を供給していた木々を根こそぎ海原へと沈めた。
潮と、泥と、瓦礫。それが、この街を構成する全てだった。
「ひどい……こんなに……」
伯琉市の中心街、間暮(まくれ)町に踏み入った彼、大狼 寿朗(オオガミ トシロウ)は掠れた声で呟いた。
いでだちはまさにレンジャー、特殊部隊そのもので、迷彩柄のパンツとジャケット、腰には相棒がなめし革の黒いホルダーに収まっている。
入隊以前は自慢だった、艶のあるサラサラな髪も今やすっかりその輝きを失い、ワックスも付けていないのにピンと立っている。――むしろこれは、砂と汗でボサボサに乱れていると言った方が合っていた。
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