後悔先に立たず

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 彼はそっと、腰の相棒に触れた。  FN、Five seveN。ベルギー製の銃身遊動遅延式、五・七ミリ弾。装填数は二十、外国の特殊部隊御用達の銃だ。  彼はいつも、不安な時はこうしてそっと銃身に手を添える。それだけで、まるで母親に包まれているときのような安心感を与えてくれた。酒とタバコとFive seveNは、すでにトシローと切っても切れない縁になっている。  だがしかし。彼が今から行おうという行動にはそれがあまりにも不要で、不吉で、存在自体が嫌厭されるであろうということは既に予想済みだった。 「なァーにボサっとしてる、新人! 行くよ」  バシッと景気良く背中を叩かれて、トシローははっと我に返る。  慌てて振り向けば、そこにいたのはトシローの上司、木上 咲耶(キノウエ サクヤ)だった。  黙っていれば街でスカウトに声をかけまくられそうな、整って派手な顔立ち。だがその実、口を開けばそのスカウトどもを返り討ちにした挙げ句、二度と接客業ができなくなるほど精神を爆撃するひと。  このような砂埃舞う荒れ地においてもツヤツヤとしたロングの黒髪は輝きを失わず、その腰付近まで伸びた長い髪を三つ編みに結い上げ、それをさらにひとつのお団子にまとめている。  トシローはそのモデル並みのルックスで隣に並ばれるのが心底嫌だった。……自分の短足ぶりが嫌が応にも露呈されるからである。  サクヤはその細い肩にスコップを掲げ、背中を埋め尽くす大きなリュックサックを背負っていた。  あまりにも軽々もたれるので忘れてしまいそうだが、そのリュックの中には様々な救援物資が詰め込まれており、その重量は登山用の装備に匹敵する。
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