後悔先に立たず

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「は、はい。サクヤさん」 「相変わらず生まれたてのヒヨコみたいなピヨピヨした返事ね。ヒヨコ頭なだけに」  サクヤはトシローの髪をぐしゃぐしゃと撫でくりまわし、ひとしきりいじると途端興味を失ったかのようにフイと顔を背けた。 「もう……ヒヨコ頭って呼ばないでくださいよ」  口の中だけでモゴモゴと反論すると、やはり聞こえたらしくギロリと睨まれる。  トシローはこの、三つ上の上司が苦手であった。普通の健全な男子なら、美人の先輩など理想中の理想、垂涎の的だろう。だがこのサクヤという女性は、なかなかどうして癖とアクと個性が強く、トシローは翻弄されっぱなしであった。 「仲が良いのはいいことだけどね、サクヤくん。もうすぐ今日のキャンプ地だよ」  サクヤの背後、二十名程の屈強かつバラエティに富んだ一団を引き連れている、今年三十を迎えた「団長」が、ニコニコと柔和な笑みを浮かべて言った。  赤ぶちの特徴的な眼鏡に、年がら年中表情を崩すことのない善人そのもののような端正な顔立ちと、細められた目。薄い唇が印象的な、短髪の男だ。 「はい。キョーゴさん」  サクヤの軍隊的なビシリとした返事に、凉城 恭吾(スズシロ キョウゴ)は苦笑した。 「サクヤくんも、“交渉中”だけは大人しくしていてくれよ。人間、第一印象が重要なんだからね」
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