乙女は幕末に落っこちて。

8/9
前へ
/34ページ
次へ
「しょうがねぇな……。 じゃあ櫻木、自己紹介」 「は、はいっ!」 うちは土方さんに言われて、弾くように立ち上がった。そして、気をつけする。 「櫻木深声、17歳です! 拾っていただきありがとうございます。 誠心誠意、働きますのでよろしくお願いします!!」 そして、その姿勢のまま頭を下げた。   「ハッハッハ!! 拾ってとはな……」 近藤さんが笑う。 確かに、そのセリフはいらなかったかもしれない。反省。 「す、すいません」 うちが謝ると、近藤さんはまた笑って許してくれた。 あぁ、うち、この人好きやわ。そういう感じの意味じゃなくて、人として。 そんなほんわかした気分に浸っていると、土方さんが口を開いた。 「しっかしお前、その奇妙な着物でいる気か?」 「え?あ、あー……」 確かに、パジャマとパーカーじゃ無理がありすぎる。   「着物貸すにも男物しかねぇだろうし」 うちは、目の前のひとが着ている着物を見つめる。そして、女の子用の着物を想像した。 どう考えたって、女の子用の着物じゃ動きにくそうだ。 「いや、うち、男物の方がいいです。女物は動きにくそうですし」 「そ、そうか?」   拍子抜けしたような表情で、土方さんがもう一度確認をとった。うちは何度もうなずく。 「じゃあ平助、貸してやれ」 「おれっ!?」 平助、と呼ばれた小さめの男の子が、自分を指さして言った。 「お前しかいねぇだろうが。 背も同じぐらいだろ?」 「おれの方がでかいですよ! ……たぶん」 最後のたぶんを自信なさげに言う姿が可愛い。うちは女子の方では大きく、160センチは普通に越えている。だから本当に彼よりもでかいかも知れない。 「櫻木、平助、行け」  「はーい」 「あ、ありがとうございます」 うちはもう一度土方さんに礼を言って、先を行く平助くん(とりあえずこう呼んでおく)の背中を追いかけた。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加