For you

6/7
前へ
/106ページ
次へ
五年目 いつから考えていたのかは分からない。 ずっと前からだったのかもしれないし、今考えてたのかもしれない。 とにかく脳内に描いたもの全てを揃えた。 ケーキ、ろうそく、クラッカー…は白けそうだから省略。 そしてこの小さい箱。 今まででこんなにもプレゼントを渡すのが、小野君に会うのが、緊張することはなかった。 遅くなっても良いから絶対に来いよ、と有無を言わせず約束した。 夜遅く、息を切らせながら僕の部屋に来た小野君とケーキを食べる。 いつもなら、たわいない話で盛り上がるのに、今日は違った。 それは全て僕のせいだと思う。 微妙な空気に耐えられなくなった僕は、小さな箱を小野君の胸に押し付けるようにして渡した。 箱と僕の顔を交互に見て、開けても良いですか、と聞かれる。 好きにすれば、とぶっきらぼうに言った僕は、小野君を見れなかった。 ラッピングを解いて箱を開ける音がする。 三ヶ月前に予約しておいた、特注品。 シルバーに輝くそれの裏側には文字を彫った。 俯いている僕の顎の下に右手を添えられ、顔を上げろと促される。 今にも泣きそうな瞳。 笑みの形の唇。 そして光り輝く薬指。 ひく、と息を吸った時にはもう遅かった。 溢れる感情も涙も震える身体も。 隠しもせず、僕は小野君の胸にぶつけた。 メールは送らなかった。
/106ページ

最初のコメントを投稿しよう!

114人が本棚に入れています
本棚に追加