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五年目
いつから考えていたのかは分からない。
ずっと前からだったのかもしれないし、今考えてたのかもしれない。
とにかく脳内に描いたもの全てを揃えた。
ケーキ、ろうそく、クラッカー…は白けそうだから省略。
そしてこの小さい箱。
今まででこんなにもプレゼントを渡すのが、小野君に会うのが、緊張することはなかった。
遅くなっても良いから絶対に来いよ、と有無を言わせず約束した。
夜遅く、息を切らせながら僕の部屋に来た小野君とケーキを食べる。
いつもなら、たわいない話で盛り上がるのに、今日は違った。
それは全て僕のせいだと思う。
微妙な空気に耐えられなくなった僕は、小さな箱を小野君の胸に押し付けるようにして渡した。
箱と僕の顔を交互に見て、開けても良いですか、と聞かれる。
好きにすれば、とぶっきらぼうに言った僕は、小野君を見れなかった。
ラッピングを解いて箱を開ける音がする。
三ヶ月前に予約しておいた、特注品。
シルバーに輝くそれの裏側には文字を彫った。
俯いている僕の顎の下に右手を添えられ、顔を上げろと促される。
今にも泣きそうな瞳。
笑みの形の唇。
そして光り輝く薬指。
ひく、と息を吸った時にはもう遅かった。
溢れる感情も涙も震える身体も。
隠しもせず、僕は小野君の胸にぶつけた。
メールは送らなかった。
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