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それは、春の桜を眺める季節になれども、夏の盆の里帰りの季節になれども、秋の落ち葉を掃く季節になれども、冬の雪に交通が痺する季節になれども、決して騒音の止むことのないこの東京の一角で。
下から見上げれば太陽の光に目は眩んでしまい頂上すら見えない、そんな東京を象徴するようなビルの最上階での出来事であり
そこはあまりに静かでいて、この騒音の都会とは別世界の様な一室でこの会話は行われていた。
「ねえ、Xゲームって知ってる?」
50歳前後の決して若くはないスーツの男はそう言い優しく微笑んだ。
しかし、テーブルを挟んで対していたコーヒーカップを片手にする眼鏡の青年
にとって、今まで幾度となく対談して来たこの男の笑顔を、楽しく談笑する為の笑顔と受け取っ
たことは一度としてなかった。
「ええ、まあ。話題の都市伝説とかなんとか……馬鹿馬鹿しい話です」
「そうそう、で、今日君を呼んだのもその馬鹿馬鹿しい都市伝説のことだって言ったら怒るかな?」
眼鏡の男は憤慨する様子も驚く様子も見せず
ただ話を聞いているのかも分からない程の涼しい顔で静かにコーヒーカップをテーブルに置いた。
「べつに、あなたが頭のおかしいぐらい前々から知っていますからね」
眼鏡の男のあからさまな嫌味にも、もう一人の男の笑顔は欠片も崩れなかった。
「そう、で、そのXゲームって都市伝説のことなんだけど、なんでもテレビゲームみたいなキャラクターを操作するわけでもなく
なんでも自分がゲームの中に入っちゃうらしいよ」
「そうですか」
「そして、驚いたことに、そのゲームのクリア報酬はなんと『3億7800万円』らしいよ」
そこでようやく眼鏡の男は眺めていたコーヒーから目を離してスーツの男の話に真面目に答えた。
「なんですか、その現実的な額は?」
「うん、ウチのね、マンションのローンの額と同じなんだよ、奇遇にも」
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