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リンコンカンコーン――…
―オキャクサマニ、オヨビダシヲイタシマス。ニカイシンシフクウリバニテ、シンシグツヲカワレ……
ざわさわとした喧噪の中、催し場フロアの入り口に、市内の小中高の制服を着たマネキンが、所狭しと揃うなか、
従業員に注文書を渡し、親や子が制服や備品や靴を受け取りに来ていた。
そんな雑多で混雑した空間の。
「うふふ……」
……試着室のカーテンを開きニコニコ顔で、俺を見上げる母さん。
「もうこれでいいよ母さん……」
うんざり顔の俺。
「ダメダメ!。
レイちゃんが着る制服に今年からカラーシャツの種類が増えたってこと、何で言わなかったの~。
制服のシャツも、選び方でオシャレになるのよ~。
だけど在庫があるから今日買えるって言うじゃない。
やっぱり来て良かった。
似合うのを着せて、もっとかっこよくなってもらいたいし~。
やっぱりブルーもいいわね。買っちゃお。
すみませ~ん」
はぁ。
俺だけだったら、絶対十五分で終わった。
時計を見た。
この会場につくやいなや、母さんの目の色が変わって……一時間三十分。
帰りてぇ……。
受け取りにくるんじゃなくて、家に直接『配送』頼めばよかった……。
俺、マネキンじゃん……。
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『疲れたの。ザルツ』
「……まあな。人に酔ったかな」
誰にも聞かれないように呟く。
『人は人に酔うの。ザルツ』
「うまい例えだな、酔うさ。こんだけウジャウジャいたら……」
場内をぐるりと見渡す。
黒い頭が人の波を作るなか……何故か金髪に目が留まる。
白いシャツの背中に流れる荒れた金髪。
見えそうなほど際どいスカートから伸びる生足に高いミュール。
……どこか卑猥でスレた格好なのに
ピンと伸びた背中は凛々しくて、格好いい。
でも、纏うのはピンク色の……
「………!…」
荒れ狂う『怒り』の
オーラ。
知らず目を見張った俺に……
―グン――グァァァオワン――ヲンキィ――――ュィ――……。
「……グッ!」
強烈な耳鳴りと、ハウリング。
肌を
びりびりと焦がす焦燥感。
突発的なことに目眩が――。
『動いちゃだめ。ザルツ』
空気の密度が変わり、ぬるりと体を包む。
人々が
まるで水の中を歩くように、ゆったりと流れていく様は。
まとい。
引き摺る。
カラフルなオーラ。
激しく通り過ぎる色に耐えられず
ズルズルとしゃがみこむ。
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