Chapter1

36/153

561人が本棚に入れています
本棚に追加
/164ページ
 民衆を煽動するのは簡単だ。脅威、おぞましい部分、冷酷な光景を何度も何度も報道、傾聴させ、煽れば良い。  それだけで世論は動く。  それだけで、歴史を作れてしまう。 「確かに、その二つで事足りるかもしれない。報道通信紙によって有識者に偽の情報を掴ませ、文盲な人間には演説をすればそれだけで世論を操作できるからな。だが……」 「まだ何かあるの?」 「それだけじゃない、と思う」  他に民衆の考えを変える方法なんてあったかな、とサラが考えている間にも、 「おかしい点がある。情報操作と演説で世論を手懐けることは可能だが、それには長い時間を要する。その日を境に世論が真逆に反転するなんて殆どあり得ないはずだ」 「そりゃまぁ、マグナ人による虐殺とか暴動なんていう事件は最近起こってないしねぇ」  八年前の奴隷解放宣言以前は、度々暴動や略奪が起きていた。マグナ人の不満が爆発したことに依るもの。責めることは出来ない。 「じゃあ、もう一つ決定的な何かが不足してるってこと?」 「たぶん、な。通信紙や演説を糧にして、多くの人間の世論を一気に変えさせるなんていう手だ。……下手をしたら、それだけで戦争をさせることもできるかもしれないな」 「戦争の原因てさ、対立する宗教、もしくは恐怖に当てられた愚民による煽動からだもんね」
/164ページ

最初のコメントを投稿しよう!

561人が本棚に入れています
本棚に追加