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ネアも本気で訊いていないのだろうが、都民全員に聞き取りとは何という重労働。人海戦術でも用いないかぎり終わらないと思う。
「あの公園での出来事なんかを考えれば、幾人かに聞き取りをすれば大体のことは解るだろう。武闘大会まで手分けして情報収集だ」
「それは無理ね」
妥当すぎる提案を身も蓋も無く却下するサラ。
「おい、サボるのは許さんぞ」
ネアのこめかみがピクピクと痙攣している。あともう少し怒らせれば、血管が浮き出てきそう。
――面白そうだけど、怒られるのは勘弁かな。
「明日は翔子ちゃんたちとお買い物する予定なのよ。私がいれば目に余るような差別とかは無さそうだし、お金はネアの財布から抜き取っておくから心配ご無用!」
「……お、お前には一度説教が必要なようだな……!」
「やーん、怒っちゃやーん」
「ふざけるのも大概に――。…………?」
ネアが視線をサラからずらした。立ち上がり、小川を跨ぐ橋の下に目を向ける。
「そこにいる奴、姿を見せろ」
「え?」
一気に雰囲気が殺伐としたものになる。
サラもネア同様に橋の下を見る。気づかなかった。この私の気配探知が、ネアよりも遅かったなんて。
「……一人だね」
「ああ。盗み聞きをしている事から察するに……」
橋の下から人間が一人ゆっくりと姿を現した。慌てている様子は微塵もない。敵か味方か。はたまた、本当に人間なのか。
「……これはまた、意外な人間だね」
サラの吐息が、月明かりの照らす河原に溶けて消えていった。
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