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「痛ぇっ! なにすんだよ!」
頭を押さえて少年はうずくまっている。その横で警官は溜め息を吐いて腰に手を当て、説教をしていた。
「いいか、ミケ。幾らお前が自分のことを野良猫だと言い張っても、町の人が聞く訳ないだろ。ゴミ箱を漁ったり、犬や猫の餌を食べたりするのはもうやめなさい」
「うっせぇ! 新米警官がっ! なにも食べなきゃ死んじゃうだろ! ミケは気ままな野良猫なんだ! 町の奴なんか知らねぇよ!」
「ミケ、お前のその嘘に付き合ってる時間はないんだ。第一お前、帰る家もあるしご飯だって作ってもらえるんだろ。いいからおとなしくそのパンを離しなさい。それはお店のものだし、賞味期限が切れたパンだぞ?」
「ばぁか! 山パンはそうそう腐んないんだよ! 防腐剤がたんまり入っているからな!」
ミケは今まで座り込んでいたアスファルトを蹴り出すと、そのまま逃げようとした。
「あ、こら!」
警官の手をすり抜けてミケは商店街を駆けてゆく。警官は慌てて自転車にまたがり、ミケの後を追う。
それはアスファルトに水玉模様ができ始めた頃のこと。もうすぐこの街は雷雨となるところだった。
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