くぬぎ町のミケ

2/10
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/51ページ
「痛ぇっ! なにすんだよ!」  頭を押さえて少年はうずくまっている。その横で警官は溜め息を吐いて腰に手を当て、説教をしていた。 「いいか、ミケ。幾らお前が自分のことを野良猫だと言い張っても、町の人が聞く訳ないだろ。ゴミ箱を漁ったり、犬や猫の餌を食べたりするのはもうやめなさい」 「うっせぇ! 新米警官がっ! なにも食べなきゃ死んじゃうだろ! ミケは気ままな野良猫なんだ! 町の奴なんか知らねぇよ!」 「ミケ、お前のその嘘に付き合ってる時間はないんだ。第一お前、帰る家もあるしご飯だって作ってもらえるんだろ。いいからおとなしくそのパンを離しなさい。それはお店のものだし、賞味期限が切れたパンだぞ?」 「ばぁか! 山パンはそうそう腐んないんだよ! 防腐剤がたんまり入っているからな!」  ミケは今まで座り込んでいたアスファルトを蹴り出すと、そのまま逃げようとした。 「あ、こら!」  警官の手をすり抜けてミケは商店街を駆けてゆく。警官は慌てて自転車にまたがり、ミケの後を追う。  それはアスファルトに水玉模様ができ始めた頃のこと。もうすぐこの街は雷雨となるところだった。
/51ページ

最初のコメントを投稿しよう!