10人が本棚に入れています
本棚に追加
くぬぎ町を知り尽くしたミケと、新米警官とでは勝負にならなかった。ミケは裏路地を走り、塀を乗り越えて新米警官を振り切った。背後に新米警官の怒鳴り声が聞こえたが、無視してずんずん突き進む。
そうして彼が辿り着いた先はくぬぎ町のゴミ溜めと呼ばれる広い空き地だった。そこにはダンボールで作られた粗末な家があり、ホームレスたちが互いに協力し、あるいは牽制しながら住んでいた。
「じっちゃ!」
ミケは迷わずそのダンボールハウスのひとつに飛び込んだ。
「じっちゃ! 見てよ! ほら、獲物だよ!」
そのダンボールハウスの主人はのそのそと起き上がった。ひどく酒臭い。見るとダンボールの床にはどこから手に入れたのか、ビール缶が三つほど転がっている。
“じっちゃ”と呼ばれた枯れ木のような老人は、擦り切れたコートを羽織ったまま、ミケの頭をわしゃわしゃ撫でた。
「おお、でかしたぞミケ! よく見つけて来たな! ご苦労ご苦労! まぁ、お前も飲みなさい!」
そう言って空のビール缶を手に取り、「ああ、もうないか」と独りごちる。
最初のコメントを投稿しよう!